歌劇戦隊ショウレンジャー

 

 

 

 

 

 

 

 

流星ヒカル       (ショウレッド)

木野カオル       (ショウイエロー)

溝呂木シンヤ    (ショウブルー)

涼村レイコ       (ショウホワイト)

黒岩ショウゴ    (ショウブラック)

 


 

                            明かりがつく。流星が一人で立っている。

 

流星       命がけの戦いに今日も挑む者がいる。ひそかに迫る危険な悪を倒すため、あらゆる困難を乗り越え進むカゲキな戦士たち!

変身!カゲキチェンジャー!

 

(名乗り音楽が流れる。そして、流星は一人でポーズをとっていく)

 

勇気の炎・ショウレッド!

友情の海・ショウブルー!

正義の風・ショウブラック!

微笑みの光・ショウピンク!

希望の稲妻・ショウイエロー!

 

カゲキに始まるショータイム!歌劇戦隊ショウレンジャー!

 

 ショウレンジャーは地球の精霊に選ばれた、五人の戦士たち。2005年のニューヒーローである!酉年の日本を守れ、思い立ったが吉日!

 この物語は、壮絶な戦いを描いた熱き勇者達の神話である……

 

(音楽F.O.)

 

 ……はずだったのだが、実は悪の宇宙秘密結社・ネオスーパーダークブラックシャドウデビル帝国の奴ら、去年はまったく攻めてこなかったのである。たった一度も。

 おかげで、この歌劇戦隊のリーダーである俺、流星ヒカルを残し、みんなは秘密基地から出て行ってしまった……

 そうそう、その秘密基地ももう無い。なんせ家賃が月に32万5千円。俺の老後のための貯金を解約し、巨大ロボットも変身スーツも売り、なんとかやりくりしていたが、ついに金もつき、秘密基地も、そして仲間達も失い、もはや、俺たち歌劇戦隊は、たった一人だけの、しかも無力な一般人と化していた。

 

 だが、それこそが、敵の狙いだったのだ!

 おととい、しびれを切らした俺が、電話で問い合わせたところ、どうやら書類の不備と連絡ミスで、本当はこの2006年に攻めてくる予定だったのだ!

  なんという大胆で緻密な作戦!

 

 ネクスト!ショウレンジャー!

 まんまと罠にはめられた俺たちショウレンジャー……というか、俺、ショウレッドは、このまま手をこまねいて、世界が征服されていくのを傍観するしかないのだろうか!?

 次回「カゲキに一人なショウレッド」

 来週も、カゲキだぜ!

 

 

                舞台全体に明かりが付く

                木野、入ってくる。

 

流星       ……というわけだ。頼む。イエロー

木野       ……色で呼ぶの辞めてよ。流星ヒカルさん。

流星       ……頼むよ、少年。

木野       誰が少年だよ。木野カオル!

流星       いや、なんか今さら、名前で呼ぶのもアレだし。

木野       どういうアレよ。

流星       イエローはイエローだろ。

木野       ……で、いくら?

流星       とりあえず、10万円いや9万いや8万7千円。

木野       無理。

流星       なんでだよ!?社会人だろ!?

木野       違う。

流星       ……辞めたの?

木野       入れなかったの。

流星       ……つまり、ニートってことだな。

木野       あんたと一緒にしないで!

流星       いいじゃん。ニート万歳、自由最高!

木野       ……とにかく、もうあの戦隊ごっことは関係ないんだから。

流星       ち・が・う!ごっこじゃないって何度言ったらわかるんだよ。俺たちは正義の精霊に選ばれた勇者なんだよ!

木野       でもその正義の精霊からもらった武器まで売っちゃったわけでしょ?

流星       元はといえば、おまえが辞めたのが原因だろうが。ショウレンジャーの会計係。

木野       お金くらい、普通に管理しなさいよ。

流星       (口笛)ちっちっちっ、俺、日本一ずさんな会計管理だからな。

木野       自慢するな。

流星       ……ごめんなさい。

木野       ショウレンジャーの秘密基地もこんな怪しい店になっちゃって。

流星       メイド喫茶をバカにするな!心のオアシスだぞ。

木野       ……家賃高い駅前に秘密基地なんか作るからこうなるのよ。

流星       便利だろ。

木野       だから怪しい喫茶店になっちゃうんでしょ。

流星       ……だからこそ!このメイド喫茶と化した秘密基地を取り返すために、おまえの金が必要とされているのだ。Wake up the Hero!

木野       他の人に頼みなよ。

流星       一応、みんなにメールしたんだけどな。

木野       でも私しかないじゃん。他の三人は?

流星       シンヤは金がない、ショウゴさんが貸してくれるわけがない。サヤには……もう頼めないだろ。

木野       ……俺たちの小指は赤い糸で結ばれてるんだ、とか言ってたくせにねぇ。

流星       いいだろ、別に。

木野       説明しよう、サヤとは、元ショウピンクで、こいつと戦隊内恋愛していた人物である。こいつの変な性格が原因で、先月、捨てられたのだ。

流星       誰に説明してんだよ。

木野       テレビの前のおともだち。

流星       カメラどこだよ!!

木野       ……あんたもよくやってるじゃん。

流星       説明しよう。ショウレンジャーはカメラがなくても、いろいろな物を説明しなくてはいけないのだ。

木野       ……で、消去法で、この私に頼むんだ?

流星       うん。

木野       嫌よ。絶対貸さない。

流星       おまえな、地球が危ないんだぞ。

木野       悪の秘密結社が攻めてくるから?

流星       うん

木野       アメリカにでも任せておきなよ。喜んで核ミサイル撃ってくれるよ。

流星       なんてロマンのない発言

木野       ロマンがなくても、地球が守れればいいんでしょ?

流星       ……ぶーぶー

木野       ぶーぶー言うな。私は、地球の未来より、自分の未来が大事なの。

 

                            そこへ涼村。

 

涼村       失礼しまーす、コーヒーの方のご主人様〜

木野       あ、はい。

涼村       失礼します……で、こちら、サバ味噌になります。

流星       あ、どうも……

涼村       ごゆっくりおくつろぎくださいませ、ご主人様。

流星       ねぇ、君、美少女だね。

涼村       あ、はい。ありがとうございます。

流星       一緒に地球のために戦わないか?命、燃え尽きるまで。

涼村       え?

木野       気にしないで。世迷言だから。

涼村       ……失礼します。

 

                            涼村、去る。

 

流星       かわいいよなぁ……そうだ、今度はあのメイドさんもうちの戦隊に来てもらおうか?

              そうだよ、サヤの代わりの……そうだな、ショウホワイトってところで。

              どうすれば誘えるかな?

木野       死ねばいいと思うよ

流星       前々から言おうと思っていたんだが……それは新手のツンデレなのか?

木野       なにそれ?

流星       ツンデレだよツンデレ。

木野       だから日本語で話しなさい。

流星       「べ、別にあんたのことなんて好きじゃないんだからねっ!」と言ってみろ。

木野       はぁ?

流星       いいから、言え!

木野       別にあんたのことなんて好きじゃない。

流星       たぁ!貴様はツンデレの何たるかがわかっていない!ツンデレの風上にも置けない!

木野       よくわかんない話してんじゃないわよ。

流星       というか……なんの話してたんだっけ?

木野       私、帰るわ。

流星       え?あ!ちょ、ちょっと待った。冗談だって。

木野       何度言ったって同じ。もう私、戦隊ごっこに関わる気ないから。

流星       なんだよ……おまえは一番ノリノリで、マジにでっかくアバレてたじゃないか。

              「私は運命に選ばれた戦士!不可能はない!」とか。

木野       昔は昔、今は今!

流星       「月に一度は押し売りよ!」とか。

木野       若いころの話よ。

流星       去年の話だろ。

木野       とにかく、あの頃の事は言わないでよ。

流星       どうしてだよ。

木野       恥ずかしいでしょ。いい大人が、戦隊ごっこやってたなんて。

流星       ……なんで恥ずかしいんだ?

木野       あんたに言った私がバカだった。

流星       確かにイエロー、おまえはバカだ。

木野       バカって言うな。

流星       そんなバカが、何も考えない、ガムシャラな魂が、ショウレンジャーには必要なんだよ。

木野       ……またショウレンジャーやれって?

流星       そうだよ。俺と一緒に平和を守ろうぜ。

木野       いや。忙しくてそんな暇ないし。

流星       大丈夫だって。就職なんかしなくても、バイトで生きていけるって。

木野       本気?社会保障もなしに生活できるの?

流星       ……だ、だったら結婚して永久就職しちゃえばいいじゃん。

木野       ……したくもない家事して、外出も出来なくて、必死で作った夕食をつまんなさそうに食べる夫に『今日もご苦労様でした』とかやれって?冗談じゃないわよ。私はメイドになんかなりたくないわよ。結婚なんかしなくていい。私は一人でいい。

流星       すいませんでした。

木野       ……あんたに言っても仕方ないけどね。ともかく、そういう遊びにかまっている暇はないの。

流星       …………

木野       もう行くわ。

 

                            そこへ面をつけた溝呂木が入ってくる。

                            涼村が気づいて、奥から出てくる。

 

涼村       おかえりなさいませ、ご主人様……うわっ!

溝呂木    そこまでだ!ショウレンジャー!

木野       ……ほら、あんた、対応してあげなよ。

流星       あ、そ、そうだな。

 

                            流星、深呼吸。

 

流星       貴様、悪の宇宙秘密結社・ネオスーパーダークブラックシャドウデビル帝国の戦闘員!

溝呂木    一歩でも動けば、この女の命はないぞ!

流星       人質とは卑怯なり!

溝呂木    ふはははは、なんとでも言え。今日こそ血祭りにあげてやるわ!

流星       くそぅ……何が目的だ!

溝呂木    それは、貴様の死だ!ショウレッド!我が牙から逃れたものはいない!獲物は、お前だ!

流星       無関係な人間を巻き込むとは……許せん!

              勇気の炎・ショウレッド!闇の力のしもべよ!アコギな真似は、おやめ(なさい)

木野       あれ?

流星       ……どしたの?いいとこなんだから……

木野       ……シンヤくん?

溝呂木    ……断じて違う!

流星       シンヤ!?

溝呂木    だから絶対違いますって。

木野       やっぱりそうだったんだ。どこかで見た事ある動きだもん。

流星       そうそう。あの変な動き。

溝呂木    ヒカル先輩に言われたくないですよ!……って、しまったぁぁぁ!

涼村       ……あのー、結局なんなんですか、ご主人様たち

木野       あぁ……その……ごめんね。

涼村       そういう遊び、困るんです。

溝呂木    あ、その……すいません。とりあえず、コーヒー、ください。

涼村       少々おまちくださいませ!

 

                            涼村、去っていく。

 

溝呂木    ヒカル先輩、カオルさん……すいませんでした!

流星       あ、いや、その……大丈夫だよ。

木野       なんでそんな……悪の戦闘員みたいになってるわけ?

溝呂木    いや、ホントに悪の戦闘員なんですよ。いーっ!

流星       ブルー、貴様、正義の心を忘れたのか?

              ……一応説明しよう。シンヤはショウブルーだったのだ。

溝呂木    ……お恥ずかしい話ですけど……うち、ついに水道止まったんですよ。

木野       ん?

溝呂木    で、稼がないと生きていけない、と思って、公園で拾ったフロムエー見てたら、「短期間  で高収入」のところに悪の戦闘員の仕事が載っていたんです。

木野       載ってるんだ。つーか求人広告出すんだ。

溝呂木    最初はどうかと思ったんですけど……月の給料が税込み21万円ですから。

木野       なんかコメントに困る額ね。

流星       悪の戦闘員なんて、そんな仕事引き受けるなよ。

溝呂木    そうなんですけど……でも気づいたときには契約終わった後で……仕事せざるを得なか    ったんです。

木野       相変わらず変なとこだけ律義ね。

溝呂木    おばあちゃんは言ってました。人とした契約は、必ず守れって。

木野       ……それで、あいつを抹殺しに来たの?

溝呂木    ……はぁ。そんなところです。

流星       そうか……大変だよな、お互い。

溝呂木    ヒカル先輩も、お金ないんですか?

流星       愚問だな。それは太陽に向かって「なぜ輝くのか」と聞くようなもんだ。

木野       いばるなよ。

溝呂木    だいたい、正義のヒーローに給料が払われないのがおかしいですよね。こちとら、身体を張って市民を守ってるのに、一円も払われないんですから。

木野       一度も身体は張ってないけどね。

溝呂木    なんのためにやってるのか、わかんなくなりますよ。ホントに。

流星       戦う意味はどこにあるのか……守ることと戦うこと、ジレンマは終わらないのだ!

溝呂木    カオルさん、なんのためにやってました?

木野       うーん……なんだかんだ言って、みんなといるのが楽しかったからかな。戦う意味じゃなくて、ショウレンジャーごっこやってた意味だけど。

溝呂木    僕は……でも僕も同じですかね。みんな個性的で、バラバラだったけど、どこかまとまってたし。

木野       ……まぁ、それがバラバラに戻るのも宿命よね。

溝呂木    ……そうかもしれませんね。

流星       あーー!

溝呂木    なんですか、やぶからぼうに。

流星       思い出した。シンヤに借りてたアレ、返さないと。

溝呂木    アレ?

流星       アレだよ、アレ!

溝呂木    アレじゃわかりませんよ。

流星       いいから、ちょっと待ってろ。40秒で戻ってくるから。

溝呂木    あ、はい。

流星       イエローも待ってろよ。絶対待ってろよ。

木野       ああ、うん。待ってる。

流星       絶対だからな

木野       大丈夫だって。私を信じてよ。

流星       ダッシュでとってくるから!とうっ!

 

                            流星、ダッシュして去る。

 

溝呂木    ……あの人も、空気が読めない人ですよね。

木野       そうね……じゃ、私、帰るわ。

溝呂木    え?

木野       元々、シンヤくん来てなかったら、もう帰るつもりだったし。

溝呂木    でも、待ってるって……いいんですか?

木野       どうせ、またやりなおしたいとか言うんでしょ。あいつ。

溝呂木    僕が言うのもなんなんですけど、もうやりなおせないんですかね?

木野       ……難しいんじゃないかな。去年とはみんな立場が違うし。

溝呂木    確かに、そうですね。

木野       またバカ騒ぎしたい、とは思うけどね。思うだけ。

溝呂木    ……ショウレンジャーは、全29話で打ち切りってことですかね。

木野       その29話って単位がよくわかんない。

溝呂木    ……まぁ、もう終わりってことです。

木野       終わりって言っちゃうと、悲しいけどね……

溝呂木    ……カオルさんはどうするんですか?これから。

木野       バリバリのキャリアウーマンでも目指すよ。

溝呂木    いいんじゃないですか。似合いますよ、きっと。

木野       とにかく、またね。悪の戦闘員なんて、やめたほうがいいと思うよ。

溝呂木    ……はい。

 

                            木野、財布から千円札を数枚置く。

                            そのまま去る。

                            一人でいる溝呂木。そこに涼村。

 

涼村       お待たせしました、ご主人様。

溝呂木    あ……さっきは、どうもすいませんでした。

涼村       ……ホント、ああいうことされると、困りますわ。

溝呂木    あ、はい。ごめんなさい。

涼村       本気で反省してます?

溝呂木    ……申し訳ないです。

涼村       あれは何ごっこだったんですの?

溝呂木    ごっこじゃなくて……その……本物です。

涼村       本物?

溝呂木    はい。

涼村       ……というか……ご主人様は、なにやってらっしゃるんですか?

溝呂木    うーんと……信じてもらえないかもしれないですけど、世界征服を企む悪の秘密結社の一員、です。

涼村       なにそれ。面白そう。

溝呂木    そ、そうですか?

涼村       うん。いいじゃん。世界征服。高校の進路調査で「宇宙征服」って書いたもん。

溝呂木    かなり個性的ですね。

涼村       ありがと。

溝呂木    ……それで……僕が悪の戦闘員で、一緒にいたのが歌劇戦隊ショウレンジャーの人たちだったんです。

涼村       へぇ。悪の戦闘員って、楽しい?

溝呂木    え、あ、はぁ。刺激的な生活であることは確かですけど。

涼村       ねぇねぇ、私も悪の秘密結社に入りたい!

溝呂木    えええ!?だって、悪の秘密結社ですよ?幼稚園バスをジャックしたり、ダムに毒投げ込んだり、あと巨大化とかもしなきゃいけないんですよ?

涼村       巨大化したい!目指せ長身美人!

溝呂木    変な人って言われません?

涼村       選ばれた特別な人間と言いなさい。このスカポンタン。

溝呂木    すかぽんたん……

涼村       悪の女幹部なら言いそうでしょ?この役たたずめ。

溝呂木    はぁ……

涼村       楽しそう。

溝呂木    そうですか?

涼村       私、刺激的な生活に憧れる、今どきの若者だし。      

溝呂木    でも……お仕事、してるんじゃないですか?契約は守らないと……

涼村       いいのよ。私は昔……私は昔、ミュージカルスターになりたかった。

              でも、今は、しがないメイドさん。ご主人様迎えて、テレビにも出よう〜

              メイドさーん、メイドさーん、メイドさーん♪

              ……とか思ってたけど、想像以上にキモいんだもん。萌えー、とか言われるの。

溝呂木    いや、それは言っちゃいけないような……

涼村       だからさ、悪の組織に入って、バカどもに「ご主人様」って呼ばせるんだ。

溝呂木    ……でも、その……悪の組織に入るなんて……

涼村       私じゃ、ダメ?

溝呂木    人員不足ですから、大丈夫だと思います。

涼村       ホント?

溝呂木    とりあえず、本部に行ってみましょうか。すぐ近くなんで。

涼村       そうね……ところで、名前は?あ、私は涼村レイコね。

溝呂木    あぁ……みぞろ……シンヤでいいです。

涼村       ふーん。よろしくね……シンくん。

溝呂木    あ、はい……えっと……レイちゃん?

涼村       ちゃんとか呼ばないでよ。ウザいから。

溝呂木    ……よろしくお願いします。ご主人様。

 

                            握手

 

涼村       とにかく、行こうよ。

溝呂木    ロジャー。

 

                            そのまま手を引っ張って、溝呂木と涼村、出て行く。

                            暗転のち、溝呂木にスポット

                            予告音楽が流れる

 

溝呂木    ネクスト!ショウレンジャー!

              こんな適当な僕たちの前に、ついに最強の敵が現れる!

              僕は……どうせなら夢を見て死にたい!

              次回「カゲキに終わるショウタイム!?」

              来週もカゲキです!

 

 

 


                            音響IN

 

流星       前回までのあらすじ!

              借金返済のタイムリミットは近い!

              そんな中、ショウブルー、シンヤの裏切りが発覚する。

              果たしてショウレンジャーの明日はどっちだ!

 

                            音響OUT

 

流星       ただいま〜

 

                            明かりがつくと、黒岩が座っている。

 

黒岩       お、お帰り。

流星       あ、ショウゴさん!来てくれたんですか?

黒岩       でも、なんで呼び出されたのに待つの、俺。

流星       すいません。でも色々と事情があるんです。

黒岩       ……カオルさんはまだ来てないの?

流星       あれ?待ってるように言ったのに……それにシンヤもいないし……どこ行ったんだ

黒岩       シンヤくんもいたんだ?

流星       いたんすよ。なんか、間違って悪の秘密結社でバイトしてるらしいです。

黒岩       ……シンヤくんらしいな。あー、久しぶりに会いたかったな。

流星       ……メールしときますよ。今すぐ来るように。来ないとショウゴさんが怒るって書いときます。

黒岩       おっけぃ

 

                           

 

流星       ところでショウゴさん……あの、金、貸してくれません?5万でいいんで。

黒岩       腎臓売れば、200万円くらいにはなるって。

流星       兄さん、臓器売買は違法ですって。

黒岩       あとはアコムとかプロミスとか。

流星       サラ金もちょっと……

黒岩       じゃあなんならいいんだ!

流星       逆ギレはやめてください。

黒岩       ……いいじゃん、本気で地球を守りたいんでしょ。

流星       そりゃ、ま、確かに。

黒岩       だいたい、あの変な武器とか売っちゃって、どう戦うの?

流星       気合と根性です。というか変な武器とか言わないでください。

黒岩       そもそも、武器がなくても巨大ロボで踏み潰せば一発じゃん。

流星       なんてこと言うんですか!?そんな卑怯なことできませんよ!

黒岩       じゃあ、一人の怪獣を、五人でタコ殴りするのは卑怯じゃないって?

流星       ……いや、まぁ、それはその……友情パワー?

黒岩       なんで疑問形なの。

流星       ともかく、そういうお約束があるんです!

黒岩       でも効率悪いじゃん。変身ポーズとか、そこを攻撃されたら終わりだし。

流星       まぁ。

黒岩       俺ね、結局、地球を守ることが優先なのか、なんかよくわかんない美学が優先なのか……そこがわかんなかったんだけど、どっちだったの?

流星       それは……

黒岩       こだわりすぎると、結局、なんにもできなくならない?

流星       ……まぁ。

黒岩       もっと気楽にやればいいじゃん。趣味戦隊アフターファイブとかで。

流星       趣味、ですか。

黒岩       そ。趣味。

流星       ……ショウゴさんは、趣味のつもりでやってたんですか?今まで。

黒岩       ……みんな違うの?

流星       わかんないですけど俺は、本気で地球の未来を守るために……

黒岩       へぇ。みんな真面目だったのか。

流星       ショウゴさんは、趣味でやってたんですか。

黒岩       ひまつぶしにいいと思ってね。

流星       ……

黒岩       突然、正義の戦士に選ばれたって言われても、誰も本気で信じないでしょ。

流星       俺は本気だったんですよ!

黒岩       怒らなくたっていいじゃん。

流星       怒ってませんよ。

黒岩       でも人にはそれぞれ、大事なモノがあるでしょ。ヒカルくんはショウレンジャーが一番大事でも、俺は違った、というだけのお話。

流星       ……ショウゴさんの大事なものって、なんですか?

黒岩       仕事……と言いたいところだけど、今は……って、もう、野暮なこと言わせない。

流星       ……そうですね。結婚するんですもんね。

黒岩       あ、式は6月だから。ヒカルくんも来てね。

流星       あ、はい。

黒岩       白馬に乗ってきて、花嫁奪うとか、そういうことしないでね。

流星       そんな映画みたいなことしませんよ。

黒岩       じゃあ、来る途中でチンピラに刺されて、その傷を隠したまま式に出席し、そのまま眠ったように死んだりするの?

流星       そんなトレンディードラマみたいなこともしません。

 

                            黒岩、タバコを出そうとする。

                            が、タバコが無いことに気づく。

 

黒岩       ねぇ、タバコある?

流星       いや、俺、やめちゃったんで。金なくて。

黒岩       ……じゃ、買ってくる。

流星       あ、俺買ってきますよ。マルボロでいいんですよね。

黒岩       わかった。よろしく。

 

                            流星、去っていく。

                            黒岩、しばらく店を見回りながら、奥のほうに行く。

                            木野、入ってくる

 

木野       ……あれ?

 

                            木野、とりあえず座る。

                            すると、奥から黒岩。

                            その手には、現金数万円。

 

黒岩       あ、カオルさん、久しぶり。

木野       久しぶり……というか、なんですか、そのお金。

黒岩       あ、これ?……落ちてた。

木野       嘘つけ!

黒岩       だって……結婚式って、けっこうお金かかるんだもん。

木野       だからって……

黒岩       ……もう、冗談なのに。

木野       ショウゴさんがやると冗談に見えないんですよ。

黒岩       ちぇ……

 

                            黒岩、渋々お金を返しに行く。

 

木野       そういうことしないでくださいよ。

              正義の味方なんですから、テレビの前のお友達が真似したら困るでしょ。

黒岩       俺、もうショウレンジャーじゃないし。

木野       ま、私ももう違いますけど……

黒岩       あ、そうか。じゃあ続けてるのって、サヤちゃんくらい?

木野       ……サヤもやめたみたいですよ。というか、別れたらしいです。

黒岩       へぇ……チャンスじゃん。好きなんでしょ?

木野       なんでそうなるんですか?

黒岩       違うの?

木野       別にあいつのことなんて、好きじゃないですよ。

黒岩       ……ツンデレ?

木野       だから、なんですか、そのツンドラって?永久凍土ですか針葉樹林帯タイガですか?

黒岩       ……ドロドロと欲望渦巻く三角関係とかじゃないんだ……つまんないの。

木野       何を期待してんですか。

黒岩       最近、昼メロ好きでさ。

木野       相変わらず、趣味がコロコロ変わりますね。

黒岩       多趣味な男と呼んでくれ。

木野       多趣味というより、節操ないですよね。野菜ソムリエとか、行政書士とか、色々やってましたもんね。

黒岩       というか、ショウレンジャー自体、趣味だったし。

木野       ……そうですよね、普通。

黒岩       カオルさんは本気だったの?ヒカルくんみたいに。

木野       どうなんでしょうね?

黒岩       俺に聞かれても困るよ。

木野       ……ところで、ヒカルはどうしたんですか?

黒岩       ヒカルくん?すれ違わなかった?

木野       いいえ。

黒岩       そう。いやね、タバコ買ってきてもらってんだ、今。

木野       あ、またですか。

黒岩       今日は自分から行くって言ったんだもん。ぷんぷん。

木野       ……年、考えましょうよ。

黒岩       私、ごくごく普通の17歳の女子高生♪

木野       ……すいませーん、コーヒーひとつ。

黒岩       もしもーし。

木野       ……ってアレ?すいませーん?

黒岩       奥には誰もいなかったよ。

木野       おかしいなぁ……

 

                            木野、奥を覗く。

 

木野       ホントだ。

黒岩       ね?

木野       さっきはメイドさんいたんですけど。

黒岩       メイドたん萌え〜

木野       ……別にいいですけどね。

 

                            そこへ涼村が入ってくる。

 

木野       あ、ちょうどいい。メニューもらえます?

涼村       黙れ小娘

木野       こ、小娘?

涼村       貴様らは今ココで、息絶えるのだ。

 

                            そこへ溝呂木が入ってくる。

 

溝呂木    ちょ、ちょっと待ってよ、レイちゃん……

涼村       ……遅い!……つーか、本気で遅い。

溝呂木    仕方ないじゃん。

涼村       それに、ちゃんで呼ばないでよ。キモイから。

溝呂木    ……はい。そうですね、ご主人様。

木野       シンヤくん、説明してよ。どーゆーこと?

溝呂木    うーんとですねぇ……なんて言えばいいんだろうか。

涼村       ほんとに使えない男ね。私は悪の宇宙秘密結社・ネオスーパー以下略帝国一の美女!

溝呂木    ……というか、女性は彼女しかいないんですけどね。

涼村       マジでうるさいな。いい所なんだから黙っててよ。

木野       つまり、悪の女幹部?

涼村       そういうこと!

木野       なんで彼女まで悪の組織に勧誘してんの?

溝呂木    それはそれは、深い事情があるんです。そう、あれは……

木野       ごめん。やっぱり、いいや。

溝呂木    いいんですか?

木野       だって私……もう戦隊とか悪の組織とか、無関係だし。

黒岩       同じく無関係。

溝呂木    ええー!?

木野       なんで驚くの?

溝呂木    だってカオルさん、一度出て行ったけど戻ってきたんですよね。

木野       え?うん。そうだけど。

溝呂木    それって、ショウレンジャーやりなおしたいとか、そういうアレじゃないんですか?

木野       ……なんでそうなるの?私、ショウゴさんに会いに来ただけ。

溝呂木    「一度はバラバラになった仲間達が再結集する」なんて、王道中の王道じゃないですか!

木野       テレビの見すぎよ。

黒岩       いいとこ、年に一度の同窓会とか。

涼村       人の話を聞け!

黒岩       あ、ごめんね。

涼村       いいか!おまえら、悪の女幹部に殺されるとか、そういう直前なんだぞ。もっと緊張感とか、そういうものを持ちなさい!

黒岩       でもさ、俺を殺してどうすんの?

涼村       え?

黒岩       俺、別に正義の味方でもないし、関係ない一般市民だから、殺しても得はないと思うけど。

涼村       そう言われてみれば……

黒岩       そもそも、君はなんで悪の秘密結社とか入ってるの?

涼村       え……あ、面白そうだから……。

黒岩       ふーん。

涼村       悪い?

黒岩       ううん、全然。俺も似たような理由で正義の戦士やってたし。

涼村       じゃあ、黙ってて。

黒岩       ……でも、それって、飽きるのも早いよ、絶対。

涼村       ……違う!あなたがどうだか知らないけど、ようやく見つけた私の夢なの。

黒岩       悪の女幹部が?

涼村       子どもの頃は、もっと夢見てた。大人に憧れてた。でも、現実には夢なんてひとつもかなわなかった。白馬の王子様もいなかった。

木野       白馬の王子様なんて、いるわけないでしょ。

涼村       知ってるわよ。だからこうして、平凡じゃない生活を手に入れたの。

木野       それで世界征服ごっこ?

              普通の幸せが手に入らないからって、現実逃避しないでよ。

涼村       普通の幸せなんてまっぴらごめんよ。

              ……働いてるとさ、女の幸せは結婚だ、とか言われるわけよ。冗談じゃない。

              退屈な家事をして、趣味の一つも出来なくて。でも不満の一つも見せないで、年中無休に『おかえりなさい、だんな様』とかやれって?私はメイドになんかなりたくないわよ。

木野       でもだからって、そんなごっこ遊びで、幸せになんてなれるわけないでしょ。

涼村       私はなって見せる。私のドラマは、私が主役なの。

              全世界の人間に、ご主人様って呼ばせてやる。

木野       そんなこと、できるわけないでしょ。

涼村       やってみなくちゃわかんないでしょ。

木野       やってみなくてもわかってる!

涼村       私は運命に選ばれた人間!不可能はないんだ。

木野       選ばれた人間なんているわけないでしょ!?

              ……お願いだから、もっと現実を見てよ。

溝呂木    ……カオルさん

木野       なに?

溝呂木    現実を見るのもいい。でも僕は……どうせなら、夢を見て死にたい!

木野       何言ってるのよ。

溝呂木    現実とか将来とかそんなものいらない。今が楽しくなくて、何が人生ですか!

涼村       そうね。いい事言うじゃん。

溝呂木    ……ご主人様、ついて行きます、どこまでも。

涼村       名前でいいわよ。

溝呂木    レイちゃん……

 

                            ふたり、見詰め合う。そこへ、流星が帰ってくる。

 

流星       ただいま〜。あ、ショウゴさん、これ、タバコ。

黒岩       お。ありがと。

流星       あ、二人とも戻って来たんだ。すれ違いかな。

木野       え、ああ、うん。たぶん。

流星       ……どうしたの?なんかあったの?

木野       えっと……

黒岩       俺に振らないで。どうぞ。

涼村       ……シンくん!やっておしまい!

溝呂木    ……えっと……というわけだ!ショウレンジャー!今日こそ息の根を止めてやる!

涼村       ……そんな話だっけ?

溝呂木    僕たちの目的はショウレンジャーの抹殺!

涼村       ……そうね。

溝呂木    ヒカル先輩も覚悟してください。

流星       結局、おまえ悪の一味なのか?

溝呂木    そうです。僕は悪のために生まれて、悪のために死ぬ男!

              正義の戦隊なんて、僕の居場所じゃなかったんです!!

木野       だからごっこ遊びはやめて。

溝呂木    遊びなんかじゃない!

木野       遊びじゃなかったら、なんだっていうのよ。

溝呂木    世界征服を企む悪の秘密結社!ネオスーパーダークブラックシャドウデビル帝国!

涼村       闇の使者・斜道冥土!

溝呂木    闇の使者・ダーク下っ端!

二人       ふたりは秘密結社!

木野       そういうのが、遊んでるっていうの。

涼村       ちが

木野       いくらカッコいいポーズ決めたって、カッコいいセリフ言ったって、なんにも変わらないじゃない。変身なんて出来ないでしょ。

 

                           

 

木野       私も……あなたと同じ。平凡な生活なんて大嫌い。

              違う自分に変身して、テレビのヒロインみたいに活躍したかった。

              でも……いつまでも現実から逃げては生きて行けない。食べなきゃダメだし、そのためにはお金が必要だし。

涼村       私は、夢のある生活がしたい。刺激が欲しい。普通じゃ嫌。

黒岩       ……昔、俺の知り合いで同じような事を言ってた奴がいるよ。

              平凡な幸せなんていらないって。

              そいつ、親の反対押しのけて、ギター一本抱えて東京に飛び出してきて、ずっと一人で歌ってた。駅前で路上ライブやったりもして、少ないけどファンもできた。

              ……でもそのうち、そいつは、歌うのを辞めた。どうしてだと思う?

涼村       ……なんで?

黒岩       簡単に言うと、疲れちゃったんだな。

              段々、歌が嫌いになってくるんだよ。一人で部屋の中で壁とか見つめながら、自分が何のために歌ってるのか、わかんなくなる……らしい。

              だからそいつは、これから平凡な家庭を築いて、歌とか、本当に好きな事は、趣味として楽しむらしい。よ。

溝呂木    やりたいことやってたら、ダメってことですか?

黒岩       そうは言ってないさ。毎日、大好物ばかり食べてたら、いつか飽きるって話。嫌いなものがあるから、好きなものもあるってこと。

溝呂木    でも、嫌いなピーマンばかり食べていたからって、好きなカレーが食べられるとは限らないんですよ。だから僕は、毎日カレーを食べていたい。

黒岩       好き嫌いしてたら、大人になれないよ。

溝呂木    だったら僕は子どものままでいい。

木野       子どものままじゃ生きていけない。知ってるでしょ?

溝呂木    …………嫌です。そんなの。

木野       嫌だって、私たちは現実に生きてるんだよ。

              カレーばっかり食べてたら、いつかダメになるって、ホントはわかってるんでしょ!?

 

                           

 

流星       なぁ……

木野       ……何?

流星       だったら……カレーにピーマン、入れようぜ。

木野       ……は?

流星       いや待て。確かに毎日カレーじゃ飽きるな。

              あれだな、好き嫌いを直すには、自分の手で料理するのが一番だな。

              よし、みんなで一緒に料理しようか。カレーといえばイエロー、おまえが指示してくれ!

木野       何言ってんのよ、そんな話じゃないでしょ。

流星       ……好き嫌いをなくそうって、そういう話だろ。

              俺もな……昔は好き嫌い多かったよ。小学生の頃なんて、カップラーメン以外は食わなかったからな。

              でも、自分で料理してみたら、嫌いだと思ってたものがおいしく感じるんだよ。あと、友だちとかに薦められて食べたのも、意外に食わず嫌いなだけだったり。

木野       そんな話してないでしょ!

流星       してただろ!

木野       してない!好きなことだけ、やってられないって話してたの。

流星       ……そうなの?

黒岩       ……そうなの?

涼村       たぶん。

黒岩       だって。

流星       好きなことやって、何が悪いんだよ。

              俺は確かに偏差値低いさ。偏差値30以下さ。

              だから俺は……無理だといわれてもショウレンジャーを続ける!

木野       無理よ。

流星       というか、無理とか言われると余計燃える!

黒岩       確かに。そう言われると、燃えるものがあるね。

流星       じゃあ、やり直しましょう!ショウレンジャー再結成しましょう!

              5人揃って、戦隊なんです!1人じゃ戦隊、できないんです。

黒岩       ……ショウレンジャーやるのって、本気じゃなくてもいいの?俺みたいに。

流星       ほんの少しでも、ショウゴさんがやりたいと思ってくれるなら。

黒岩       じゃ、やる。

流星       はやっ!

黒岩       だって、退屈しなさそうだし。

流星       みんな一緒なら、退屈なんてしませんよ。

黒岩       でもホントに趣味戦隊アフターファイブだけどいい?

流星       いい、と思います。それぞれ、立場は違っても、関われる時間が違っても……

              魂さえ熱く燃やしていれば、きっといい戦隊が作れると思うんです。

黒岩       魂か……燃やせるかな?

流星       大丈夫です。俺が燃やして見せます。

              暑苦しさは、日頃から鍛えてますから。

黒岩       確かに。

溝呂木    待ってくださいよ、先輩。

              そりゃ、僕だって戦隊やりたいですけど……やっぱりダメです。

流星       どうして?

溝呂木    ……また、前みたいに、やめなくちゃいけなくなります。

              ショウレンジャーやってたら、生活できないんです。僕は。

流星       ……じゃあ、そのまま悪の戦闘員続けるのか?

              あの夏の日……夕日がキレイなあの河原で語ってくれたじゃないか。

              「僕、正義の味方になるのが昔から夢だったんです」って。

溝呂木    ……

流星       いいじゃないか。悪の戦闘員として働きながら、時々ショウレンジャーとして活動すれば?

溝呂木    ……それ、いいんですか?

流星       アレだな。設定としてはスパイだな。悪の組織に潜入した正義の味方!

              バレないために、仲間達と戦わなくてはいけない苦悩!

              しかし最後には敵の弱点を見つけ出す!おまえが勝利のカギだ!

溝呂木    確かに……カッコイイですね、それ。

流星       あ、そうそう。これ、返さないと。例のDVD。

溝呂木    あ、ちょっと、先輩、こんなところで!

涼村       ……「制服、スクール水着、ブルマー、メガネと、萌え要素が、これでもか〜って、

              てんこ盛り、絵梨佳の超ピュア素肌にぐぐっと迫る」……

 

                            涼村、ディスクを取り出して割る。

 

溝呂木    ちょ、あっ……

涼村       文句、ある?

溝呂木    ……ないです、ご主人様。

涼村       とゆーか、私の許可なく、勝手に寝返らないでよ。私たちは悪に生きるんでしょ?

流星       だったら、君も一緒にどうだ?

涼村       私?

流星       色々と事情があって、うち、4人しかいないんだよ。カッコつかないだろ。

黒岩       説明しよう。原因はヒカルくんがピンクの子と付き合ってて、別れたからなのだ。

涼村       へぇ

流星       ……ちょっとばらさないでくださいよ。

涼村       でも……いいんですか?

流星       敵か味方か、謎の戦士!というのはカッコよくないか?

溝呂木    いかにも、カッコいい!

涼村       ……そね。やってあげてもいいわよ。

流星       じゃあ、君は今日から、ショウホワイトだ!

涼村       ロジャー。

溝呂木    じゃあ、一緒にやれるんだね。

涼村       そね。ま、なんにせよ、私の下僕だから。

溝呂木    ……はい。ご主人様。

流星       よし、じゃあ五人揃ったことだし、一発、ポーズでも決めるか!

 

                            名乗り音楽が流れる(照明も変化?)

 

流星       ショウレッド!

溝呂木    ショウブルー!

黒岩       ショウブラック!

涼村       ショウホワイト!

流星       ……おい、イエロー、どうしたんだよ。

木野       ……私、やるなんて一言も言ってない。

 

                            音楽、カットアウト。

 

木野       なにその現実逃避。魂を燃やせば?二重生活?もっとちゃんと考えなさいよ。

流星       考えた結果だよ。

木野       考えてなんかないでしょ。ただ自分のやりたい方向にみんなを乗せてるだけでしょ?

              あんた一人が頑張ったって、前と同じ、ダメになるのがオチよ。

流星       だから、五人揃わなきゃダメなんだよ。それに、やりたいことやって何が悪いんだよ。

木野       やりたいことやれない人間だって多いんだから!

              ……そりゃさ、私だって……一緒にバカやりたいよ。

溝呂木    だったら一緒に

木野       できないって言ってるの。やりたくたって、できないの。

黒岩       どうして?

木野       私、好きなことやってると、周りが見えなくなるんです。

              そういう時間が楽しいです。でも、それだけじゃ、何も残らないんです。

黒岩       残らないって?

木野       だって、正義の戦隊やっても、戦いが終わったあとの仕事があるわけじゃないし、私は資格だってないし、何かが出来るわけじゃないし……怖いんですよ。

黒岩       ……そっか。じゃあ、仕方ないね。

木野       だから、ショウレンジャーは続けられません。

流星       待てよ。勝手に終わりにするなよ。

木野       ……何?

流星       俺たちショウレンジャーには……俺には、おまえが必要なんだ。

木野       ……他の誰かを誘えばいいでしょ?

流星       カオルじゃなきゃダメなんだよ!

木野       ……ヒカル……

流星       俺、お金の管理とかできないし。

木野       そういうオチかよ!

流星       ……1人1人がダメ人間でも、5人揃えば何かができるよ。それが仲間だろ。

木野       そうだけど。

流星       ……やりたいんなら、諦めるなよ。

木野       ……でも……

流星       いいじゃないか。終わったときの事なんか、終わった時に考えろよ。

木野       ……

黒岩       ……なんかさ、もっとこういう時って、安心させてあげるセリフじゃないと。

流星       はい、どうぞ。

黒岩       ……俺?いやいや、ここは、ね?

流星       人生経験豊かなショウゴさんにお願いしたいんですが。

黒岩       やーねぇ。私17歳の女子高生だし。

流星       ……あのさ、カオル……

木野       ……何?

流星       なんとかなるよ。たぶん。

木野       たぶんって何!?安心感ゼロむしろマイナスつーかバカでしょあんた!

流星       ……何言えばよかったんですか?

黒岩       お前は一生、俺が支えてやるぜ!とか。

流星       なんでそんなプロポーズしなきゃいけないんですか、こいつに。

黒岩       だって、好きじゃなんでしょ?

流星       なんでそうなるんですか?

木野       私、ホントに好きじゃないですから。

黒岩       ……なんだ、つまんない。

溝呂木    説明しよう。ショウゴさんは、誰でもカップルにしたがる困った性格なのだ。

黒岩       さらに説明しよう。おかげでヒカルくんと元ピンクのサヤちゃんは付き合ったのだ。

溝呂木    さらに説明しよう。でもサヤさんにとって、先輩はただのキープだったのだ。

木野       さら説明しよう。原因は、収入ゼロ、家事能力ゼロ、相手への気配りゼロ、あるのは無駄な存在感だけのこいつにあるのだ。

流星       おまえらうるさい。

涼村       さらに説明してください……結局どうなったんですか?えっと……カオルさんは。

木野       ……どうなったの?説明してよ。

流星       なぜ俺に聞く。

木野       よくわかんない。なんか、なんとかなりそうな気がしてきた。

              一人じゃ出来ないことだって、五人ならできるかな、とか。

溝呂木    カオルさんもヒカル先輩並みに単純ですよね。

木野       グーとパー、どっちがいい?

溝呂木    ……パーで。

 

                            木野、溝呂木を平手打ち。

 

木野       ……ともかく。一応付き合うことにしてあげる。

涼村       いいんですか?そんな適当で。

木野       それを言ったら、みんな適当でしょ。

黒岩       いい加減なのは、良い加減。

木野       そーゆーこと、かな。よろしくね。

涼村       はい。

流星       よし、じゃあ変身だ!

木野       いや、変身アイテムとかスーツとか売ったんでしょ。

流星       魂を変身させるんだよ!

木野       意味わかんないし。

流星       いいんだよ!いくぞ!変身!カゲキチェンジャ〜!

 

                            変身ポーズ。その後、名乗りポーズ

 

流星       勇気の炎・ショウレッド!

溝呂木    友情の海・ショウブルー!

黒岩       正義の風・ショウブラック!

涼村       愛の剣・ショウホワイト!

木野       希望の稲妻・ショウイエロー!

流星       カゲキに始まる

五人       ショータイム!

木野       歌劇戦隊!

五人       ショウレンジャー!

 

                            主題歌が流れる。歌う五人。

                            曲が終わる。

 

木野       ……おつかれさまでした。

四人       おつかれさまでした。

流星       ……じゃあ、みんな!頼みがある。

木野       なに?

流星       金、貸してくれ!

四人       …………

 

                            暗転

                            予告音楽が流れる。

 

流星       ネクスト!ショウレンジャー!

              金が明らかに足りない俺たちは、バイトにいそしむことになった。

              しかし、面接で落とされる俺!果たして俺は、ニートを卒業できるのか!

              次回「カゲキに始まるバイト生活」

              来週もカゲキだぜ!